「基地国家」と日米地位協定

8月24日、日米地位協定について考える学習会が桜木町で開催されました(主催 神奈川ネットワーク運動)。講師は、法政大学法学部教授の明田川融さんです。

長年にわたり日米地位協定の研究をされている法政大学の 明田川融 教授

一度も改定されていない地位協定
日本は、1952年のサンフランシスコ講和条約発効で主権を回復すると同時に米国と日米安全保障条約を結び、米軍の駐留を引き続き認めました。その際定められたのが日米行政協定です。
安保条約は1960年に防衛義務を盛り込む形で改定され、あわせて行政協定も現在の地位協定に改められました。在日米軍が日本国内で円滑に活動できるようにするために特別な権利を定めた協定ですが、外務省は協定が特権的であるとの見方を一貫して否定しています。

しかし、地位協定に基づく特権によって米軍関係者が日本国内で事件や事故を起こしても日本側が十分に捜査できない問題はあとを絶ちません。
2018年と2020年に全国知事会が協定の抜本的な見直しを提言しましたが、日米両政府は、米軍基地内で自治体などによる環境調査を認めたり、米軍が裁判権をもつ米軍関係者の範囲を縮小したりする「補足協定」は結んだものの、提言には応じず、地位協定自体はこれまで一度も改定されていません。

米軍の駐留受け入れ諸国の間で、国内法適用状況は異なる
明田川先生の講演は「基地国家」と日米地位協定と題したものでした。
基地国家というのは、他国の軍事基地が存在することによって(守られるのではなく逆に)安全保障上のリスクを負い、主権が及ばない領域があることに甘んじ、平常時においても人々の生活や権利が脅かされる国-という意味合いではないかと思います。

ただ、国内法の適用について見れば、米軍の駐留(米軍基地)を受け入れている国の間で一様ではないそうです。
日本政府は、軍隊派遣国と受入れ国との間で個別の取り決めがない限り、受入れ国の法令は適用されないという考え方を堅持しており、日米地位協定は、米軍人らに日本の法令の「尊重」義務を定めるにとどまっています。

これに対し、ヨーロッパのNATO加盟国とオーストラリアにおいては、個別の取り決めがある事項以外は、米軍等の外国軍隊にも自国の法令を遵守(適用)させていて、日本とは原則と例外の関係が逆です。なぜ日本政府はヨーロッパ諸国と同等の権利主張ができないのか!

日米の「同盟」関係は、「統合性」をずっと模索してきた!
1997年の「日米防衛協力のための指針」(「ガイドライン」)で、初めて掲げられた自衛隊と米軍の「相互運用性」は、その後分野を広げてキーワード的に使われています。
米軍と自衛隊の指揮統制の連携において、上下関係のイメージを避けつつ一体化を志向する言葉であると言えそうです。

先月行われた日米の外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)では、今年度末に自衛隊に設置される陸海空自の「統合作戦司令部」に対応する位置づけ(カウンターパート)で、米側が在日米軍を再編して「統合軍司令部」を新設する方針が明らかになりました。
私見ですが、相互運用性という名のもとの一体化が一層進むものではないかと危惧します。

「基地国家」の道づれとならないために
明田川先生は、台湾有事の米軍の行動に日本が巻き込まれて「基地国家の道づれにならないために」として、2つの提案をされました。

1つは事前協議制の活用です。1960年の安保条約の改定に際して日米が交わした「岸・ハーター交換公文」には、日本の防衛以外の目的で米軍が日本国内の基地から出撃(戦闘作戦行動のための基地としての日本国内の施設及び区域の使用)する場合には、日米が事前に協議を行う必要があることが規定されています。
60年以上にわたって使われないできた規定ですが、米国の台湾有事ありきの前のめり姿勢を正し、慎重にさせる意味で、「事前協議を安全性の維持装置にする」ことを急ぐべきです(今の政府~首相が交替しても~の外交能力の問題は大きいですが…)。

もう1つは、長期的視野に立った「軍備制限地帯構想」です。沖縄本島を含む南西諸島と台湾、その先の上海を含む中国の沿岸部一帯を軍備制限地帯(非武装地帯ではなく、基地、潜水艦・弾道ミサイル・航続距離の長いドローンの配備などを制限する地帯)を設ける構想です。
明田川先生は、「どうやって4者を交渉のテーブルに着かせるか、軍備制限実行状況の監視機関をどうするかといった問題は大きい」とも話されていましたが、こうした構想を目指すべき方向として共有化して日中台米が対話と交渉を重ねていくことが、近い将来起こりうる致命的危機の回避につながると感じました。戦後史の中で同様の構想は繰り返し提唱されても各国政府に顧みられないできたのかもしれませんが、今こそ意味を持つのではないでしょうか。